シリーズ おススメの一冊 【第2回】
「豊かさ」はどのようにして生み出されてきたのか?
経営学部准教授 千田 直毅
みなさんこんにちは。コロナウィルス騒動でこれまで当たり前と思っていた生活様式が一変し、この先どうなるのかと不安に思いながらも、いわゆる「新しい生活様式」に少しずつ慣れ始めて来たころではないでしょうか。春先に比べると、少なくとも日本では少し社会に落ち着きが見え始めてはきましたが、今後も第2波などのリスクがなくなったわけではありません。
しかしながら、パンデミック対策の難しいところは、人々の命を感染症から守りながら同時に日常生活も守っていかなければならないところであるのは皆さんもニュースなどでよく見聞きしているかと思います。つまり、感染拡大を防ぎなからどうやって経済を回していくか、という難しい課題が私たちに突きつけられています。
実際、多くの人々にとっての不安は、感染症に罹患する怖さもさることながら、「今後の我々の生活はどうなってしまうのか?」ということもまた大きいのではないでしょうか。経済が死んでしまうことによる不安が世界中の人々の非常に大きな関心事になっているということは、すなわち現代を生きる私たちの人生において「経済活動」が切っても切り離せないものである、またそこから生み出される「経済的繁栄(豊かさ)」を失うことにとても恐怖を抱いている、ということがいえるのではないでしょうか。
実際、今回のコロナ騒動によって、今まで当たり前にできていた経済活動ができなくなることによって皆さんの多くが様々な不便や不利益を実感したのではないでしょうか。
でも、ここで少し考えてみてほしいことは、わたしたちが享受している経済的な「豊かさ」とは一体何なのか、またそれはどのように生み出されてきたのでしょうか。なぜ経済を回していくということが現代社会においてそれほど大切なことであると多くの人が考えるのでしょうか。そして、21世紀になった現在においても経済的な「豊かさ」の実現には国や地域によって未だかなりの差異があるのはなぜなのでしょうか(経済的に豊かであるということが人間にとって幸福か、という議論は、それはそれで面白いテーマなのですがここでは一旦横においておきます)。
やっと本題の書籍紹介に入るのですが、図らずも今回のコロナ騒動で私たちが改めて向き合うことになった「(経済的な)豊かさ」についてじっくり考えることができる1冊を紹介します。
ウイリアム・バーンスタインの『「豊かさ」の誕生—成長と発展の文明史』上・下巻です。この本では、近代以降になぜ一部の国や地域(西洋)が経済的成長、発展を達成することができたのか、その条件を歴史的に紐解いていく内容になっています。豊かさの条件として4つの要因(私有財産制権、科学的合理主義、効率的な資本市場、通信・輸送手段の発達)を挙げて分析していて、特に科学的合理主義の説明のパートは、皆さんが大学において科学的・合理的な思考やものの見方を学ぶ事がなぜ重要なのかということもわかりやすく理解できる内容になっています。
上・下2巻といわれると、ヘビーな分量に思うかもしれませんが、とても理解しやすい文章で書かれているので、案外一気に読めてしまいます。
コロナウィルスが私たちの生活に見直しや新たな生き方への転換を突きつけてきている中、現代を生きる私たちの多くがこれまである意味当たり前のものとして捉えてきた「経済成長」や「豊かさ」について、この機会に一度じっくりと考えてみてはいかがでしょうか。
千田直毅の一冊 : ウイリアム・バーンスタイン[徳川家広:訳](2015年)『「豊かさ」の誕生—成長と発展の文明史(上・下巻)』日経ビジネス文庫