シリーズ おススメの一冊 【第1回】

2020.06.10 NEWS

経営学部生の皆様へ

アフター・コロナの世の中は、おそらくビフォアー・コロナの時代よりも遥かに、「知」による経済格差が露骨に現れるでしょう。「知」による武装を怠れば、未来は拓けません。知的武装の最もオーソドックスな方法は読書です。先人たちの知恵を我が物とするのが読書の効用です。今回から「おススメの一冊」と題して、面白く、楽しく「知」を蓄えるのに役立つ本を先生方に紹介してもらいます。「ん、これは」と思う一冊があれば、それは未来の前に立ちはだかる壁を粉砕する砲弾になるかもしれませんよ。

まず、トップバッターはお馴染みの辻幸恵先生です。

 

シリーズ おススメの一冊 【第1回】

若者って何者? ~ どっちつかずの愉悦と憂鬱 ~

経営学部教授 辻 幸恵

私のおススメは香山リカさんの『若者の法則』です。岩波書店から出版されている新書で赤い表紙の本です。初版が出たのは2002年、もうそれから20年近くが経っています。でも、内容はとても今風で、皆さんに対しても、この本で香山さんが提起した「法則」は十分に通用すると思います。余談ですが、香山リカさんは精神科医です。

この本は「確かな自分をつかみたい」の法則、「どこかでだれかとつながりたい」の法則、「まず見かけや形で示してほしい」の法則、「関係ないことまでかまっちゃいられない」の法則、「似たものどうしでなごみたい」の法則、「いつかはリスペクトしたい、されたい」の法則という6つの「法則」から構成されています。学生の皆さんなら、「あるある」と思わずうなずきそうなコンセプトが並んでますよね。

各法則はひとつの章になっていて、そのなかにいくつかのトピックスがあります。たとえば、「まず見かけや形で示してほしい」の法則の章には、「化粧」、「買い物」、「バイト」、「メール」、「ケータイ電話」など、若者たちの生活には切っても切れないツールやアイテムやシチュエーションがピックアップされています。「メール」はまだしも、「ケータイ電話」はいささか時代を感じさせますが・・・。

皆さんもご存じのように、私の担当科目は「マーケティング論」と「マーケティング・リサーチ」。この本のタイトルと同様に研究対象は若者で、大学生の生態を調査しています。職業柄、目の前にいる大学生たちを観察することから始めています。最近の大学生たちがどんどん「常識的」になってきて、「大人」とあまり変わらないので驚くこともあります。

最終章の「いつかはリスペクトしたい、されたい」の法則には、「老人」というトピックスがあります。大学2年生に「一番恐いもの」を尋ねたとき、「高校生」という答えが返ってきました。その理由はなんと「理解できないから」でした。香山さんや私から見ると、大学2年生と高校生は、ほぼ同じように見えるのですが、大学2年生は「自分たちはもう年寄りで、高校生たち若者とはぜんぜん違う」というのです。

皆さんは当然、年寄りではありません。ただ、子どもでもありません。そう、若者なのです。香山リカさんの本を読み、それらの法則と自分の生活や考え方を照らし合わせてみてはいかがでしょうか。若者と呼ばれる自分っていったい何者? 自分探しのヒントがちりばめられた好著だと思います。

 

辻幸恵の一冊 : 香山リカ(2002年)『若者の法則』岩波新書