シリーズ おススメの一冊 【第7回】

2021.01.08 NEWS

未来につながるパスがある

経営学部教授  今野 勤

ノーサイド・ゲームは人気作家 池井戸 潤 氏の小説である。アマゾンの書評を紹介するとあらすじは下記の通りである。

“未来につながる、パスがある。大手自動車メーカー・トキワ自動車のエリート社員だった君嶋隼人は、とある大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長に左遷させられ、同社ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することに。かつて強豪として鳴らしたアストロズも、いまは成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばず。巨額の赤字を垂れ流していた。アストロズを再生せよ―。ラグビーに関して何の知識も経験もない、ズブの素人である君嶋が、お荷物社会人ラグビーの再建に挑む。” [1]

初版本の発行部数だけで、20万部であり、ベストセラーの一つであることは間違いない [2]。この小説はTVドラマ化され、東芝日曜劇場で2019年に放送された。主人公の君嶋を人気俳優の大泉 洋が演じた。当時は、ラグビーワールドカップが、日本で開催され、同放送の最高視聴率も13.8%を記録した [3]。また、テーマソング“馬と鹿”は、Lemon , パプリカなどの大ヒット曲を生み出した米津玄師(よねづ けんし)が担当している。オリコンの週間ダウンロードランキングで2.4万ダウンロードを記録している [4]。

このように話題性が満載した小説であるが、ストーリーはいたってシンプルである。組織から見放された主人公が、素人にもかかわらず社会人ラグビー部のゼネラルマネージャーになる。彼を中心に、お荷物ラグビー部部員、前任のラグビー部監督を更迭されたラグビー部監督、一度はケガでラグビーをあきらめたラガーマンらがチームを立て直し、宿敵のラグビーチームに最終試合で勝ち、リーグ優勝とラグビー部の廃止を撤回させる。そのプロセスでの挫折と復活の繰り返しが、小説のクライマックスに向けて盛り上げていく。

またラグビーと並行して、主人公の仕事では、味方と思っていた経営企画室の元上司が実は裏切り者で、敵対していた上司が実は理解者であった。

具体的にはトキワ自動車がM&Aで購入しようとしていた企業が実は、巨額な不正を抱えていた。それを元上司が、不正を暴き企業を間一髪で救った英雄となり役員に出世した。M&Aを仕掛けていた主人公と敵対していた役員は、更迭され子会社に飛ばされた。勢力を強め社内での発言力を増したこの元上司が、会社のお荷物としてラグビー部を廃部にしようとする。主人公はラグビー部を守るために、M&Aには裏があり、元上司が先方の社長と仕組んだお芝居であるのだが、元上司は最後に先方の社長も裏切った。これらの一連のストーリーを主人公が会社の役員会で暴いた。池井戸作品でよくある倍返しである。

世界の言葉でも、
“悪が栄えた世はない”

日本でも
“勧善懲悪”という言葉がある。

会社に限らず組織ではよくある裏切りや、騙し合いである。これに負けない方法は、緻密な情報収集と、信頼できる仲間とのチームワーク、土壇場で出る知恵と、それを実行する勇気である。これが、未来につながるパスとなり、元上司に代わり経営企画室長になり、横浜工場長を兼務し、日本蹴球協会理事に就任した主人公がこれからも大きく成長していくことを予感させる。

最後に当初は主人公に敵対していた、理解者の上司の言葉で締めくくる。

“君も私も、このチームも、そしてトキワ自動車という会社も、さらにいえばこの日本という国も、あるいは世界のすべてがそうだ。最後に過(あやま)たず、理に適(かな)ったものだけが残る。逆に言えば、道理を外れれば、いつかしっぺ返しを食らう。自浄作用がなくなったときに、そのシステムは終わる”・・・

“だが、もっと大きなところで、どんどん理不尽がまかり通る世界になっている。だからこそ、ラグビーというスポーツが必要なんだろう。『ノーサイド』の精神は日本ラグビーの御伽噺(おとぎばなし)かもしれないが、いまこの世界こそ、それが必要だと思わないか。もし日本が世界と互角に戦える強豪国になれば、きっとその尊い精神を世界に伝えられるだろう。それこそが君に与えられた使命だ” [5]

[1] ノーサイド・ゲーム書評(アマゾン)
https://www.amazon.co.jp/ノーサイド・ゲーム-池井戸-潤/dp/4478108374

[2] ノーサイド・ゲーム ダイヤモンド社
https://www.diamond.co.jp/information/book/201904241704.html

[3] ノーサイド・ゲーム 最高視聴率
https://mantan-web.jp/article/20190917dog00m200000000c.html

[4] 米津 玄師
https://www.oricon.co.jp/news/2148004/full/

[5] 池井戸 潤:ノーサイド・ゲーム、ダイヤモンド社、P.401~402、2019

 

今野 勤の一冊:池井戸 潤(2019) ノーサイド・ゲーム ダイヤモンド社
https://www.amazon.co.jp/ノーサイド・ゲーム-池井戸-潤/dp/4478108374

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