シリーズ おススメの一冊 【第3回】
難解な理論に親しむために
経営学部准教授 福井 直人
初めまして、今年4月より経営学部に着任しました福井と申します。2008年に神戸大学で博士号を取得後、12年間北九州市立大学に奉職いたしまして、このたび郷里(大阪)に近い神戸学院大学にやってまいりました。専門は経営学のなかでも経営組織論や人的資源管理論でして、平たく言えば人々による協働をどのように形づくっていくかに関心があります。本日紹介させていただく本も、やはり経営学に関する本となりました。
私のおススメの一冊としてぜひとも紹介したい本は『世界標準の経営理論』です。理論というと難しく聞こえるかもしれませんが、さしあたり「企業経営を分析するためのツール」というほどに理解しておけばよいでしょう。
経営学部に入学された皆さんは、経営学の本を読む中で必ずいくつもの理論に出くわします。ところが、理論について説明してある箇所は難解であることが多く、企業経営を学ぶうえでこんな抽象的なことを知る必要があるのかと疑問に思うことでしょう。実は、企業経営という複雑な現象をシンプルに切り取って説明するためには、理論は必要不可欠なのです。ただし、理論を学ぶためには少なからず努力を要します。
理論を学ぶためには、経営学の基本的な教科書を読んだり、辞書を確認したりする方法が一般的です。しかし、教科書を読んだとしても自身の学びたい理論がどの本で解説されているかがわかりにくく、初学者にとっては躓きとなりやすいところでした。まして、数ある理論を1冊に集約してわかりやすく説明した本はありませんでした。そのニーズにこたえてくれるのが、昨年末に出版された本書です。
本書では経営学の標準理論が30余り明快に紹介されています(もちろん何が標準なのか、理論の選択・分類については様々な意見もあることでしょう)。基本的には1つの理論が1章で完結していますので、全ページを通読しなくても自身が関心のある箇所のみ拾い読みすることも可能です。
なおこの本は総ページ数が800頁を超える大著であり、専門的な内容も一部に含まれるため、1年生や2年生がいきなり取り組むにはハードルが高いかもしれません。とはいえ、どちらかといえば一般書に近いタッチで文章が書かれているので、完全とはいかなくとも内容は一応理解できると思います。経営学にはどういった理論があるのか、そして経営学の研究とはどのようなステップでなされるのかなど、早めに知っておいたほうがよい内容も多く含まれているので、ぜひとも本書にチャレンジしてほしいです。3年生以上については、研究書を読むためにも、あるいは卒業論文を書くためにも、理論の知識は欠かせないので、本書を読むことを推奨します。
一点だけ注意してほしいのは、本書を読んだだけで各理論を、まして経営理論全体を完全にマスターできるわけではないことです。各理論を使った研究書や論文が数多くあるはずです。本書を足掛かりとして、さらにより専門的な文献に進むことによって、理論についての知識をいっそう深めてほしいと思います。
福井直人の一冊 : 入山章栄(2019年)『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社。